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2023年度 江崎玲於奈賞・つくば賞・つくば奨励賞受賞者

2023年度 江崎玲於奈賞

(

 

十倉 好紀(おさくらいtokとくらとくら よしのり)

理化学研究所 創発物性科学研究センター
センター長

于 秀珍(おさくらいうう しゅうしん)

理化学研究所 創発物性科学研究センター   
電子状態マイクロスコピー研究チーム
チームリーダー

授賞の対象となった研究主題

 スピン渦結晶の直接観察とその物性の研究

受賞理由

 スピン渦結晶とはスキルミオンと呼ばれるスピン渦の結晶配列である。スキルミオンは、原子核を構成する核 子のトポロジカルな渦からなる準粒子であり、1961T.Skyrme (スキルム)によって提案された。その後、磁性体中でもスピン渦からなるスキルミオンが存在することが理論的に予言され、中性子線回折実験によってMnSiでスピン渦結晶の存在が示唆された。十倉好紀、干秀珍の両氏は、2010年磁場制御により安定なスピン渦の2次元的な結晶を実現し、磁気顕微鏡により渦構造を実空間で直接観察することに成功した。その後、スピン渦結晶が準安定で、広い温度範囲で存在し、敏感な電気応答を示すことや、室温以上でも安定に存在し、超低電流で駆動できることなどを発見した。それによりスピン渦結晶を支配する基本原理と物性を解明し、次世代の大容量メモリなどへの応用の可能性を示した。


2023年度 つくば賞

江面 浩(おさくらいえづら ひろし

筑波大学 生命環境系
教授

(おさくらい

授賞の対象となった研究主題

 ゲノム編集技術を含む新たな育種技術の基盤構築と社会実装への展開

受賞理由

 江面氏は、トマトの突然変異体集団を構築することで、世界最大規模のリソース基盤を構築した。さらにその活用によってトマトの日持ち性、高糖度性、機能性成分に関わる遺伝子の機能解明に貢献した。それらの知見とゲノム編集技術を融合することにより、健康機能性成分であるガンマ-アミノ酪酸(GABA)を高蓄積するトマトを開発して2021年から上市し、一般流通食品としては世界第1号の事例となった。大学発ベンチャー企業を設立してゲノム編集作物の社会実装の道を切り拓くなど、国内のみならず海外においても大きな反響を呼んでおり、今後の植物科学および作物育種の発展に大きく貢献するものである。


2023年度 つくば奨励賞(実用化研究部門)

今村 岳(いまむら がく)

物質・材料研究機構 高分子・バイオ材料研究センター
バイオ材料分野 電気化学ナノバイオグループ
主任研究員

南 皓輔(みなみ こうすけ)

物質・材料研究機構 高分子・バイオ材料研究センター
バイオ材料分野 嗅覚センサグループ
主任研究員

吉川 元起(よしかわよしかわよしかわ げんき)

物質・材料研究機構 高分子・バイオ材料研究センター
バイオ材料分野 嗅覚センサグループ
グループリーダー

授賞の対象となった研究主題

 膜型表面応力センサ(MSS)を用いた嗅覚センサの総合的研究・開発と社会実装

受賞理由 

 人の五感(視覚、聴覚、味覚など)は様々な形で工業化されてきた。しかし、嗅覚センサーに関しては40年以上に及ぶ研究開発が行われてきたが未だ社会実装に至っていない。候補者らは、嗅覚センサーとして知られる膜型表面応力センサー(MSS)で生じる物理現象を解き明かすことで粘弾性的特性を理論式として表現することに成功し、様々なニオイ分子に対応可能な化学的多様性を持たせるナノ構造等の嗅覚センサーの実現に成功した。一方、クラウド上に設けた蓄積されたデータを基にオンラインで高精度にニオイ識別ができる新たなシグナル解析法の開発にも成功し社会実装に漕ぎ着けた。本研究主題は、嗅覚センサーの統合的な研究開発を通じて誰でもがニオイのデジタル化を体験できる新な市場環境の提供に成功した。NIMS発ベンチャー「株式会社Qception」を設立し社会実装を開始しており、予想される事業規模も大きく今後の事業展開が期待できる。


2023年度 つくば奨励賞(若手研究者部門)

内田 健一 ( うちだ けんいち

物質・材料研究機構 磁性・スピントロニクス材料研究センター
スピンエネルギーグループ
上席グループリーダー

授賞の対象となった研究主題

 スピンカロリトロニクスに関する基盤研究

受賞理由

 スピンカロリトロニクスは電子の持つスピンと電荷が熱と相互作用する融合的な研究領域である。内田氏らは熱流によるスピン流生成現象である「スピンゼーベック効果」を発見(2008年)し、この分野のパイオニアとして世界を先導している。内田氏は2016年に物質・材料研究機構に着任して以降、「異方性磁気ペルチェ効果」や「磁気トムソン効果」と呼ばれる物理現象を次々と発見・観測することに世界に初めて成功するなどの顕著な研究業績を挙げている。内田氏はまた昨年36歳という異例の若さで科学技術振興機構「戦略的創造研究推進事業(ERATO)」の「内田磁性熱動体プロジェクト」の研究総括に抜擢されるなど、将来の大きな飛躍が期待できる若手研究者である。