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2025年度 江崎玲於奈賞・つくば賞・つくば奨励賞受賞者

2025年度 江崎玲於奈賞

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安達 千波矢(あだち ちはや)

九州大学 工学研究院
主幹教授

受賞の対象となった研究主題

 有機二重ヘテロ構造の構築と新しい発光分子の創製による有機 LED の高性能化

受賞理由

   有機発光ダイオード(OLED:Organic Light-Emitting Diode)は、有機の電子輸送層と正孔輸送層を積層化した構造が米国で 1987 年に考案されて実用化が実現し、スマートフォンや薄型 TV に使われ、画像の質向上や消費電力の低減が進んでいる。安達千波矢氏は、1988 年、電子輸送層と正孔輸送層の間に第3の発光層を入れた二重ヘテロ構造の OLED を初めて実現し、材料選択の自由度を拡げた。また、優れた電子輸送機能を持つオキサジアゾール誘導体の開発にも成功した。
 さらに、安達氏は、OLED の発光効率の向上を目指し、「熱活性化遅延蛍光」と呼ぶ現象が効率よく生じる新分子を設計・創製し、90%を超える内部効率を達成した。続いて、発光層をホスト材料・熱活性化遅延蛍光材料・蛍光材料の3種で構成すると、ハイパー蛍光と呼ぶ高効率の発光が得られることを示した。
 以上、安達氏は、量子化学に基づく分子設計を駆使し、OLED など有機発光素子の性能向上と学理の発展に大きく貢献しており、その業績は江崎玲於奈賞に相応しい。


2025年度 つくば賞

高田 和典(たかだ  かずのり

物質・材料研究機構 
フェロー

受賞の対象となった研究主題

 全固体電池の研究開発

受賞理由

   可燃性の有機溶剤を用いる現行リチウムイオン電池では大型化によって安全性が低下する。自動車の電動化や再生可能エネルギーの高効率貯蔵への応用には、不燃性の固体電解質を用いる全固体リチウム電池の開発が不可欠となってきた。
 高田和典氏は、電極に固体電解質を使用する独特の電池構成を提案し、さらに、数ナノメートルの厚みの酸化物系固体電解質の緩衝層を正極界面に介在させた界面構造を創出し、全固体電池のエネルギー密度と出力特性を現行リチウムイオン電池に匹敵するまでに向上させた。
 これらの成果は、間もなく実用化されようとしている車載用電池の開発に向けて大きく貢献するものである。


2025年度 つくば奨励賞(実用化研究部門)

Wu Rudder(ウー ラダー)

物質・材料研究機構 構造材料研究センター
超耐熱材料グループ
主任研究員

受賞の対象となった研究主題

 持続可能な未来を支える革新的なマテリアル・イノベーション:TIISA 断熱材技術の展開と社会実装

受賞理由

  中空粒子や一次粒子などの微粒子を利用して粒子間の空間を制御し、非常に低い熱伝導率を有する流動性固体断熱材TIISA®の開発に成功した。TIISA®は地球にも人体にも安全でしかも安価なアモルファスシリカ材質で構成されている。
 候補者はその微細化により、既存のエアロゲルからなる粉体の体積の10倍を超えるかさ高い粉体の作製に成功し、それによりナノ構造界面でのフォノン散乱による断熱性を制御し、熱伝導率を低減することを可能にした。本開発材料は、広範な使用可能温度(-253℃から1300℃)に対応しているため、自動車、家電、建設など多岐にわたる分野での応用が見込まれる。
 このようにTIISA®は従来の断熱材と比べて優れた性能と経済性を兼ね備えた材料であるので、社会に広く浸透しエネルギー効率を地球規模で向上させることが期待される。


2025年度 つくば奨励賞(若手研究者部門)

海老原 格 ( えびはら ただし

筑波大学 システム情報系
准教授

受賞の対象となった研究主題

 水中における通信と測位を実現する音響無線技術に関する研究

受賞理由

 地球表面の約 70%を占める海洋は、気候変動や生態系保護、資源管理など地球規模の課題解決において重要な役割を果たしている。このような中、海中 IoT(Internet of Things)の実現は、海洋環境のモニタリングや資源管理、災害予測などにおいて不可欠な技術である。
 海老原格氏は、海中 IoT の基盤技術である「水中音響通信」に関する研究を推進しており、特に電力対策やドップラー対策の確立を実現し、実海域における実証実験にまで到達している。この結果、電波がほとんど伝わらない水中において、解決の鍵となる音波を利用した通信技術により、効率的かつ安定した通信技術の開発に大きく貢献している。
 上記の成果は、大きな社会インパクトがある技術として高く評価されており、数多くの著名学術誌に掲載されたほか、国内外で8件の賞を受賞している。